「 当国雲岸(岩)寺のおくに、佛頂和尚山居跡有。
- たて横の五尺にたらぬ草の庵 むすぶもくやし 雨なかりせば -
と、松の炭して岩に書付侍りと、いつぞや聞え給ふ。其跡みんと雲岸寺に杖を曳ば、人々すゝむで共にいざなひ、若き人おほく道のほど打さはぎて、おぼえず彼麓に到る。山はおくあるけしきにて、谷道遙に、松杉黒く苔したゞりて、卯月の天今猶寒し。十景尽る所、橋をわたつて山門に入。さて、かの跡はいづくのほどにやと、後の山によぢのぼれば、石上(せきじょう)の小庵岩窟にむすびかけたり。妙禅師の死関、法雲法師の石室(せきしつ)をみるがごとし。
- 木啄も庵はやぶらず夏木立 - と、とりあえぬ一句を柱に残侍し。
松尾芭蕉
『おくのほそ道』より 」