2010年
10/1
懐かしき声に目覚めぬ草ひばり
夢半ばでも次もあり草ひばり
邯鄲や夢はまだまだ諦めず
邯鄲や夢はいつでもその先に
邯鄲や夢半ばなり諦めず
天高し雲に向かって上る道
船を打つ波音優し秋深し
想ひ出にいざなはれゆく草ひばり
赤い羽静かに募るご老人
10/2
秋日差し美容院の待ち時間
大南瓜色鮮やかに美容院
娘の髪の結ひ上がりたり秋うらら
三ポーズ撮る晴れ姿秋の次女
晴れ姿ポーズとる娘や秋深し
末の娘の二十歳の着物秋の声
末娘二十歳や秋の写真館
秋の街娘二十歳の笑顔かな
黄昏て今金木犀の香り初む
帰宅してまた出掛ける夜虫の声
鳴き出しは二匹高くて虫しぐれ
鳴き競ふ二匹合図に虫しぐれ
外に出れば鈴虫二匹競ひをり
金木犀性悪説を振り払ふ
性悪説事件の重さ秋の風
秋刀魚焼く匂いや我が家も近し
おしゃべりをやめ金木犀振り返る
この闇に金木犀を探し見る
振り返りまた闇探す金木犀
ひとつ角曲がれば虫の鳴く世界
10/3
振り返り子追ふまなざし秋深し
杖の人エスコートする娘秋深し
松茸のむすびを買ひて歩も軽く
この階段上れば秋の街へ出る
寒暖も少しは我慢秋ファッション
地下鉄を出て秋の街日やわらか
みっちりと稽古疲れや秋の夜
向かひ風金木犀の中を行く
駅降りて鈴虫の中へ歩みゆく
歩むほど鈴虫の声深くなり
秋の夜狸囃子を聞いたといふ
10/4
小窓より金木犀の香る朝
雨降りて金木犀の香のいよよ
金木犀ないものねだりがほのかなり
金木犀幼き頃を想ひをり
秋の窓子らの喧嘩のいとほしき
睡魔に襲われつつあり秋の午後
鈴虫や暫し手を止め聞き入れり
虫の音を聴く静けさや我が庵
聞き分けること難しき虫繚乱
千匹の虫鳴きたるも静かなり
話しつつ別れて金木犀の道
ゆけどゆけど追ひかけてくる金木犀
10/5
金木犀で目覚める今日の幸せ
香で目覚め今日の幸せ金木犀
この香りあなたに届け金木犀
(世にも奇妙な物語「栞の恋」から)
この香君に届きますように金木犀
歩きても止まりてもなほ金木犀
角曲がるたび新たなり金木犀
茜雲消えて虫の音甦る
茜雲我に戻りて金木犀
茜雲広がりてをり街は秋
どこまでも行きたき秋や茜雲
母と兄と共に無花果食むひと日
無花果やその色その味懐かしき
虫時雨の夜あり独唱の夜あり
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