お玉井戸
野田尻が宿場として栄えていた昔、大椚から入る所に長峰の池という池があり、風趣に満ちていた。その頃、野田尻宿のえびす屋という宿屋にお玉という美しい女中がおり、近在の若者たちのあこがれの的だった。おかげでえびす屋は大賑わいだったが、ひときわ目立つ美しい若者が夜ごと通うようになった。
お玉と若者は恋に落ち、夜な夜な逢瀬を重ねたが、帰ってくるお玉がいつも全身びっしょりなのをいぶかしく思い、主人が訳を訊いた。すると、お玉は恋人は長峰の池の主であるのだという。そして、もう屋敷に仕えるわけにはいかなくなった、お暇をいただきたい、という。
わが娘のように可愛がっていたお玉であったので主人も悩んだが、ついには折れて、涙ながらに暇を出した。お玉は深く感謝して、野田尻は水が足りなくて困る土地なので、望む場所にきれいな水を出しましょう、といって去った。こうしてできた井戸がお玉井戸と呼ばれた。お玉自身が池の主の竜神だった、という話もある。
『上野原町誌 下』より要約